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現代の建物の基礎といえば、コンクリートが主流です。住宅建築では、コンクリート基礎の上を平坦に仕上げ、その上に土台の木材をボルトで取り付けます。
ここで気付いた方もいらっしゃるかも知れませんが、ここまでの工程で、実は木材の加工はほとんどありません。土台である木材を用意し、穴を開けさえすれば、後はボルトで締めれば良いわけで、実に簡単、しかも早い。
箱根関所の建物では、基礎といえば礎石や石垣です。礎石や石垣の上に木材の土台や柱が載る、これが日本の伝統的建造物の基本形です。
基礎となる礎石や石垣は、石ですから、コンクリートとは違って大なり小なり凸凹があります。このデコボコした石の上に木材をぴったり取付ける加工技術のことを光付け(ひかりつけ)と呼びます。この作業は単純ながら恐ろしく手間の掛かる作業なのです。
土台を石垣の上に光付ける方法はまず、土台を石垣の上に置き、コンパスで石の凹凸を写し取ります。このとき、コンパスの片方の軸で石の凹凸をなぞり、もう一方の軸で材料に石の凹凸を再現します。
次に写し取った石の凹凸形状にしたがって土台を加工します。石の上部に石灰を撒き、木材と石の密着具合を確認しながら作業を進めます。石と木材が密着していないと、土台を載せたときに石灰がほんの少ししかつきません。
石灰が付いているところ(すなわち、石が当たっているところ)を削り、全体に石灰がまんべんなく付くようになるまで、木材を削っては石に乗せて確認し、ひっくり返してはまた削り・・・と延々と気の遠くなるような作業を3,4日ほど続けると土台の光付けが完成します。
こうして光付けた土台は、石としっかり接しているので、滅多なことでは外れないものとなります。必ずしも手間がかかったものが良いというわけではないのですが、何より、建物で最も重要な土台部分に労力を注ぎ込む、この精神は道理にかなっていると思うのですが、いかがでしょうか。
箱根関所に行く機会がありましたら、厩の土台をご覧下さい。土台の光付けのできの良さはなかなかのものです。現地を見学する際は、ぜひ、建物の下のほうにも目を向けてみてください。
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