復元作業では発掘遺構と共にこの「出来形帳」の内容が大変尊重されます。設計担当者のみならず、大工棟梁をはじめとする施工者まで常にこの「出来形帳」の内容を読み、理解を深めました。
特に、大工の棟梁の取り組みは並ではありません。古文書の解読は大変高度な知識を要するため、通常は「読み下し文」という、古文書解読に長けた研究者によって現代の漢字に直されたものを読むのが普通です。ところが、棟梁は「読み下し文」だけでは飽き足らず、常に原文の複写したものを直接読むようにしていました。こうすると、当時「出来形帳」を記した人の気持ちや時代背景が古文書を通してよく伝わってきて、復元工事にも力が入ったそうです。
また、「出来形帳」の出番は復元図が作成される時だけではありません。原寸図を作成するときにも常に「出来形帳」の記載寸法が常に忠実に活かされています。実際に木材の継手や仕口を加工する時にも「出来形帳」が尊重されていました。
箱根関所の復元は、「出来形帳」という非常に優秀な古文書を読むことによって進められました。箱根関所の復元された大番所や京口御門を見るとき、建物を構成する一つ一つの部材が「出来形帳」に記載されたものであったことを思い出すと、少し違った見え方がするかもしれません。
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