箱根関所完全復元への道のり / 箱根関跡保存整備事業 / 伝統技術も復元する
栩葺板の製作工程(竹釘)
『クリック』拡大します。
『クリック』拡大します。
 栩葺(とちぶき)屋根の特徴は、板を打ち付けるために竹釘を使用することです。
 竹釘とはその名のとおり竹で作られた釘のことです。昔こそ板葺き屋根の施工に利用されていましたが、板葺き屋根がなくなった現代では竹釘自体がたいへん珍しいものとなりました。
 さて、屋根板に竹釘を打つとき、職人さんは竹釘を口に含んで打ちます。袋から軽くひとつかみの竹釘を口に入れ、何やら「もごもご」したかと思うと、次の瞬間には口先に竹釘を出し、あっという間に金槌で打ちつけていきます。
 素朴な疑問ですが、なぜ竹釘を口に含むのでしょうか。職人らしくてカッコいいから?竹釘に唾液をつけるのがコツ?答えはどちらも不正解です。口に含む本当の理由は、実は屋根の上での大量の釘打ち作業という、不安定な場所ならではの合理的な作業を追求した結果だったのです。
 職人さんの屋根の上での作業をよく観察すると、屋根の上では三角の椅子に腰掛けながら、右手に金槌をもち、左手では屋根板を押え、まったく不安定極まりない状態です。こんな状態で左手にさらに竹釘をつかもうものなら、不安定な上に作業が中断して仕方ありませんし、膨大な量の竹釘を素早く打つこともできません。
 そこで利用されるのが、口です。口に含んだ竹は、口の中でうまく釘の方向を調え、とがった方を手前向きに準備しておきます。いざ、金槌で打つときは、金槌を持っている右手で、金槌を握ったままの人差し指と親指で口の竹釘をつまみます。そのまま、金槌の柄(え・つまり持つ所)で軽く板に打ち込み、さらに金槌で続けざまに打ち込んでいきます。
 こうすることで、わざわざ左手を使って竹釘の方向を整えて、左手で竹釘を構え、右手で金槌を打ちつけて・・・といった手間をかけなくても、より素早く、左手を自由に使いながら安定した状態で竹釘を打つことができるのです。
 その速さといったら、1本打つのに5秒とかかりません。板の薄いこけら葺(栩葺では板の厚さが3分=9ミリ程度ですが、こけら葺では板厚が1分=3ミリと薄い)なら、ものの1〜2秒で1本の竹釘を口から手につかみ、竹釘を打ち終わることができます。
 なにしろ、あまりの早さに、初めてご覧になった方は「金槌から自動で竹釘が出ている!」と勘違いするほどです。どんなに熟練の大工さんでも、屋根職人の竹釘の早撃ちには舌を巻きます。